第7回 ファーストフードの裏側

 先ごろ(2007年8月10日)、農林水産省より食料自給率の発表があり、2006年度は39%(カ ロリーベース)と、ついに13年ぶりの40%割れとなったと報じられております。米の消費量の減少に加え、天候不順で主要作物が不作になったことが大きな 要因のようです。例えば、砂糖の原料となるてん菜などは、6月の日照不足や夏場の高温多雨による糖度の低下で砂糖の生産減少、果物は春先の低温による発育 不良、夏の集中豪雨、秋の台風により生産減少、イモ類については日照不足により単収・生産が減少など、となっています。米の消費量も、前年に比べて1人1 年当たりの消費が0.4kg減少しています(61.4kg→61.0kg)。減少幅は小さいもののじりじりと下がっています。

<品目別自給率>単位%(2006年度、供給熱量ベース、農林水産省による)

「13年ぶり」と言っても、前回は93年度(37%)で、あの米の大凶作の時ですから事情が少し違います。1973年に73%だった食料自給率が、89年に50%を割り込み、98年から40%になり、ついに政府の掲げる目標(15年までに45%)むなしく、今回の結果となってしまいました。ここには、「異常気象」という環境問題、そして生活習慣も含めた食習慣の問題があると思います。

 さて、この政府の掲げる食料自給率の向上に貢献できるかどうかわかりませんが、今回はある本をご紹介したいと思います。タイトルは「おいしいハンバーガーのこわい話」(エリック・シュローサー、チャールズ・ウィルソン著/宇丹貴代実 訳/草思社刊)です。

「生活習慣病」、「メタボリックシンドローム」の言葉が生まれ、健康志向が高まる一方で、なぜかジャンクフードの勢いは一向に衰えを見せず、最近では「メガマック」と呼ばれる特大ハンバーガーが大人気。これ1個だけでなんと754kcal! また、コンビにでは、巨大プリンなどデザート系が大流行だとか。しかも、なぜか30代男性らに?街を歩いても、スーパーに買い物に行っても、どこへ行こう と甘い菓子や食欲そそるファーストフードがてぐすねひいて待ち構えています。よほどしっかりした意識を持っていないと、味覚の欲求に打ち勝てず、ついつい メーカーや販売店の思惑に乗ってしまいます。これが度重なるとみるみるうちに体重は増え、栄養バランスを崩し、生活習慣病一直線!ということになりかねま せん。

 そこで、ジャンクフードの誘惑に負けないための1冊がこの本であります!タイトルからして、話はハンバーガーについてというこ とがわかりますが、内容はそれだけにとどまらず、ファーストフード全体に及び、その歴史、企業のマーケティング戦略、生産・製造の背景(生産者、労働者の 実態)、ファーストフード中毒など、緻密な取材調査に基づいて著され、大変興味深ものになっています。言わば、「ファーストフードの裏側」とでも申しましょうか。この本を読むことによって、ファーストフードの真の姿を知ることとなり、その引力圏から脱出することができる、かも?

内容を一部ご紹介しましょう。

 フライドポテトについての話で、M社のフライドポテトの味の人気の秘密について、ひとつ大きな特徴があることを述べています。
「フライドポテトの味を左右する大きな要素は、揚げ油だ。数十年の間、M社はほぼ大豆7、牛脂93の比率で混ぜた油で フライドポテトを揚げていた。…中略…こんなに牛の脂肪が多いポテトはカラダに良くない、と医者や栄養士たちが言い出したので、1990年植物油に切り替 えて批判をかわした。ところが、切り替えるとき、ひとつの大きな問題にぶつかった。どうすれば、牛脂を遣わずに、かすかにビーフの味がするフライドポテト を作れるのか?(「おいしいハンバーガーのこわい話」より引用)」
これから話は、天然香料、そして食品添加物へと展開していきます。

 「ファーストフードのストロベリー・ミルクシェイクの原料はというと、次のような感じになる。乳脂肪および脱脂乳、砂糖、スイートホエー、高果糖コーンシロップ、 グアルコム、モノジグセリド、セルロースガム、リン酸ナトリウム、カラギーナン、クエン酸、食用赤色40号、人工いちご香料。では人工いちご香料には何が含まれるのか。(「おいしいハンバーガーのこわい話」より引用)」ときて、そこに含まれる化学物質名を50種近く列挙しています。どんな味も科学的簡単に作れるというわけです。

 「この20年間に、食品が作られる過程において、香料業界の役割が途方もなく大きくなった。おかげで、いまや多くの子供たちが、本物の味より人工の味を好むようになった。大人の添加物を作るとき、調香師はできるだけ自然に味に近づけようとする。ところが、子供向けのものについては、ふつう、苦味を取り除いて甘味を加える。大人向けの味に比べて甘さが2倍という場合もよくある。(「おいしいハンバーガーのこわい話」より引用)」
適切な判断能力を持たない子供たちに、メーカーは味覚を満足させ、買ってもらおうといろんな味で攻め寄ってきます。すべて、化学的に作られた味なのです。

「ファーストフード・チェーンのマーケティングがうまくいったせいで、アメリカ人は現時、30年前に比べておよそ2倍の清涼飲料を飲んでいる。…中略…350ml缶の清涼飲料水を年570缶以上飲んでいる計算になる。1978年、平均的なアメリカのティーンエイジの少年は、1日200mlあまりの清涼飲料水を飲んでいた。今日の少年は、その3倍近い量を口にして、1日のカロリーのほぼ10%を清涼飲料水から摂っている。…缶1本に含まれる砂糖の量は、茶さじ約10杯分だ。(「おいしいハンバーガーのこわい話」より引用)」
このように量が増えた背景には、メーカーの恐るべきマーケティング戦略があったことも詳しく述べています。

 「クリスティーナ・クラークは、アラスカ州グレナレンに住む12歳。ブラックフット族とアサバスカ俗の血を引くアメリカ先住民だ。彼女は今、ジャンクフードとの清涼飲料のことで心をかき乱されている。家族の何人かは1日に4、5本の缶入り清涼飲料水を飲む。他の多くのアメリカ先住民やエスキモーと同じように、彼らもまた、歯をほとんど失っている。(「おいしいハンバーガーのこわい話」より)」
も ともと独自の生活文化を持ち、健康的に暮らしていた先住民社会にも、容赦なく経済至上主義の魔の手は伸び、利便性と経済性とを代償に人々から生活・精神文 化そして健康をも奪っていることを伝えます。日本はまだ米を中心とした伝統文化という選択肢があるだけ総崩れはしておりません。水も、質が落ちたとは言 え、水道水で飲めますし、買って飲む時代にはなりましたが、お茶を飲む習慣があります。こうして他の少数民族や他の文化圏の食文化を見てみますと、改めて 日本はなんと高質で強固な食文化をもった国なのだろうと思います。

均質で低価格のハンバーガーを大量生産するためには、原料の大量供給が必要です。それら原料を供給する会社の安全性の実態について、過去の食中毒の事例も引用し、説明しています。
「感染した牛から病原体がまき散らされるのは肥育場に限った話ではない。食肉処理場や、ハンバーガー用のひき肉工場でも、病原菌がまき散らかされている。処理 場の作業のうち特に肉の汚染が起きやすいのは、牛の皮をはぎ取る作業と、消化器官を取り除く作業だ。皮がきれいに洗われていなかった場合、泥や糞のかたま りが肉の上に落ちる恐れがある。消化器官を牛の体から取り除く作業は、今も手で行われているが、ちゃんと気をつけないと、胃袋や腸管の中身があちこちに飛 び散ってしまう。」さらに、「子供たちには、ひき肉を食べるとき、きちんと火が通っているか、必ず確認してもらいたい。ピンクに見える部分がほんの少しでもあったら失格だ。…中略…肥育場でなぜ病原菌が広がるのか、食肉処理場でなぜ病原菌が広がるのか、ハンバーガー工場でなぜ病原菌が広がるのかについて、科学的観点からさまざまな説明がなされている。だが、“ハンバーガーを食べた時ひどい病気にかかる恐れがあるのはなぜか”についての根本的な理由は、ただひとつ。肉に糞が混じっているからだ。(「おいしいハンバーガーのこわい話」より)」
思わず絶句。われわれ一般消費者は、スーパーなどできれいにカットされた肉しか目にしませんが、言われてみれば、それらはもともと1個の個体から解体されたものであり、その過程で一歩間違えば大変なことになる実態を改めて思い知らされます。

私はこの本を紹介することでファーストフードを糾弾しようとするものではありません。コーラやハンバーガーの存在が悪いのではありません。ひき肉に罪はあ りません。問題は、人であり、すべては人の選択であり、人の欲がもたらした大量生産、大量消費の弊害だと思います。大企業はそれだけで社会への貢献度も大 きいといえます。しかし、その一方で責任も巨大です。特に食品産業は人の生命に直接かかわる分野のものですからその影響力を十分考慮しなければなりませ ん。消費者は、たとえどんなに価格が安くても、体に悪いものは誰一人望んではいません。企業は消費者の健康を気遣い、責任感ある営業活動をすべきです。常 に自分の子供や、親、兄弟に食べさせるつもりで商品の開発や製造をすべきです。もちろん、消費者も企業が道を誤らないよう監視し、賢い選択をする努力を怠れません。同じ人間ですから。

 食料自給率を上げることは自らの健康を、そして、日本の食文化を守ることでもあります。一人一人が強い

今回、コラム掲載にあたり、「おいしいハンバーガーのこわい話」の出版元である草思社様から文章の引用や表紙画像の使用に御快諾をいただきました。ありがとうございます。
草思社のサイトはこちらにございますので、御興味のある方はぜひご覧下さい。

第1回 日本人とお米
第2回 五味調和をテーブルに!簡単!美味しい!山本式調理法
第3回 マクロビオティックを再認識!
第4回 “「ご飯は太る」は嘘”だそうです!
第5回 「PFCバランス」と「日本型食生活」
第6回 カロリーにこだわる!
第7回 ファーストフードの裏側
第8回 精米の原点「水車」を訪ねて
第9回 「食」は運命を左右する
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